「ボータイ」を制する者がベトナムを制す Vol.5

第5回 ベトナム最大のイベント「テト」の恐怖

今回は、ベトナム人にとって、1年で最大のイベント、「テト」。旧暦正月についてのお話です。テトとは、漢字に直すと「節」。つまり、中華文明圏でいうところの「春節」のことです。

テトこそ全てテトこそ命

ベトナム人にとって、日本人や欧米人が祝う太陽暦のカレンダーの正月とは正月ではなく、唯一絶対、不可侵にして神聖な祝日が、それこそが太陰暦に則ったベトナム正月「テト」なのです。

なにぶん、普段、祝日や休日が少なく、1日何十円単位の生活費を切り詰めながら一生懸命働いている善男善女たちも、この日ばかりは、普段ためたお金とストレスを一気に使い切り、真っ白な灰になるまで遊び倒します。

みんな幸せそうだし、この季節は果物や食べ物が美味しいし、長い休みがあるし、こりゃいいや! と、われわれ在住日本人も一緒になってテトを楽しみたいところなのですが、なかなか、そういうわけにもいきません。

実はこのテト、ベトナムで仕事をしている日本人にとっては「恐怖のシーズン」とも言うべき正念場なのです。

めでたくもありめでたくもなし

日本人ならば、1年の計は元旦にあり。せいぜい3が日が終われば、普段どおりの生活に戻り、松の内過ぎたら、来年の新年までは浮かれ気分も何もないのが普通なのですが、ここベトナムにおいて、テトとは、元日周辺の数日のみには留まりません。

まず、旧正月の季節が、まだまだ先のはずの太陽暦(=西洋カレンダー)11月とか12月でさえも、すでに、旧正月の休みを見越し、旅行や帰郷の計画を立てるベトナム人従業員やマネージャーたちの、ウキウキ&ソワソワが始まり、「何かみんな浮き足だって凡ミスが多くなってきたなー」という兆候が見え始めます。

そして、近年の商業化の波によって、様々なお祭り騒ぎが繰り広げられるクリスマス、太陽暦正月の余韻の残る1月中旬、本格的に「テトぼけ」が始まってしまったベトナム人スタッフたちの中には、シフト無視の有給休暇や無断欠勤、駄目もとの給料前借りの申し込みや、2日酔い、職場での無許可忘年会など、不埒な悪行三昧をやり始めるのがいて、風紀が乱れまくります。

百歩譲って、「まあ、お正月だし、しょうがないじゃん」と目をつぶって、もの分かり良くふるまったとしても、旧正月で本当に頭が痛いのは「資金繰り」。

なにせ、日本でも2月と8月は売り上げが落ちるという「ニッパチ」なるワードがありますが、ベトナムにおいても、現地人&在住外国人がいっせいに休みを取って、どこかに行ったり、呑んだくれて寝ていたりするクリスマスの12月から2月のテトは、ただでさえ売り上げが落ちてしまう時節です。

それなのに。ああ、それなのに!

役所や、お客様、社員一人ひとりへの贈り物。1週間ほどの有給休暇に、勤労年数に応じたボーナスの支払い。

みんな、お金が必要だから、テトに向けて、毎年恒例の便乗値上げ。支払いの取り立ても、待ったなし。

なんと、お金が出て行くことが、苛烈な月なのでしょうか。

しかも、テトの後1か月ぐらいまでは、第一次産業の生産現場(=農村・漁村)が呑んだくれて働かなくなるため、原材料の供給が止まってしまったり、田舎や同業他社で仕事を見つけた社員が、そのまま無断退職してシフトに大穴が開いたり、とまあ、影響を引きずりまくるわけです。はい。

毎年恒例のこととは言えど、いい加減にしてほしい

思うに、昔のテト休みなんて、「お金がないから、あんまり休業しないで働かせてください!」っていうスタッフも多かったし、iPhoneも海外旅行も手が届かない頃のベトナム人スタッフの給料&ボーナスも、ささやかで済んでいました。

もちろん、いまさら、その時代には戻ることはないし、われわれがお世話になっているベトナムの、国や社会が発展した結果のエスカレートなのだから、まあ、フトコロは痛いけど、仕方のない話です。

イソップ童話に出てくる働きアリのごとく、夏の暑い日に、せっせせっせと働いて、冬に備えて売り上げと資材とスタッフを蓄える。

それしかないんでしょうかねえ、やっぱ。

 

 


29屋(にくや)

在ベトナム22 年。本業である食品卸し・小売業のかたわら、「29屋」のペンネームにて、日越の仕事や人間関係を面白おかしく観察したコラム連載や講演、テレビ出演などを多数こなしている。

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